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フェイクと情報弱者たち

ちょっと鍼灸治療でも受けてみるかと思い立った時、ほとんどの人はネットの力に頼ってしまうでしょう。Googleで検索をかけると、だいたい上位に来るのは「東京 鍼 名医」とか、「東京 鍼 小顔」とか、「東京 鍼 評判」とか、「東京 鍼 口コミ」なんていうワードです。
 
そもそもそんな検索で本当の名医やらに出会えるとは思えませんし、ネット上の口コミサイトはヤラセが少なくないですから、狙った鍼灸院で期待通りの施術を受けられる可能性は低いかもしれません。実際に、口コミサイトへの投稿は同業者や、精神的に不安定な人からの事実無根の嫌がらせコメントもよくあります。特に、鍼灸業界に関して言えば、口コミサイトや質問サイトや2ちゃ〇ねるなどであたかも事実であるかのように専門家気取りで騒いでいる鍼灸師は、実際には臨床現場で役に立たぬような人々が多いようです。だいたい、有能な鍼灸師は多忙ですから、そういった掲示板的サイトや2ちゃ〇ねるなどに関わるヒマなどないという事実は、想像に難くないと思います。

そもそも、口コミサイトは誰でも匿名で気軽に投稿できたり、システム上悪用されやすいという根本的な問題があるようですが、特に「初投稿の場合は星3つ以上でないと投稿できません」とか、「店舗の不利益になるような口コミは削除します」などという、元から正当に評価できないようなシステム自体が真実を隠蔽し、イ〇チキを助長する温床となっているようです。
 
そもそも、口コミサイトにも儲けるためのカラクリがあるようです。つまり、店舗側から金をもらう代わりに運営者側が口コミの順位を意図的に操作し、店舗側と口コミサイト運営側がお互いに不当な利益を得る、という消費者にとってはアンフェアなやり方が2008年頃から流行り出すようになりました。確かに真面目に運営している口コミサイトもあるようですが、事実とは異なる口コミを垂れ流しにし続けているサイトも実在します。
 
当院も鍼灸院を開設して間もない頃は、某口コミサイトから営業の電話が毎日のようにあり、「正会員になって会費を支払っていただければ順位を上位にしますよ!」なんて言われていました。しかし、私にはそういうイン〇キをしてまで患者を集めてやろうという魂胆など微塵もなかったので、営業関係の電話はすべて断るようにしていました。当時はSEO対策関係の営業電話も多くて、「毎月一定額の料金を頂ければGoogleの検索で上位にくるようにしますよ!」なんて電話もよくありました。しかし、そもそもコンテンツの少ない、内容の希薄なウェブサイトなどに外部業者がSEO対策を施したとしても、Googleの検索アルゴリズムが変化すれば何れはそういうサイトは淘汰されてゆくでしょうし、そんな狡猾なことはする気にもならなかったので、無視していました。
 
ちなみに、そういう虚構で作り上げられ、あっという間に検索上位に伸し上ってきたような新参ウェブサイトは、ちょっとみれば判別がつきます。しかし、普段からそういう真偽を見分ける訓練をしていない消費者は、そういうサイトに延々と騙され続けてしまうかもしれません。とにかく、現代は嘘の情報が沢山溢れていますが、騙されやすい人は烏賀陽弘道氏の「フェイクニュースの見分け方 (新潮新書) 」でも読んで自衛してください。最近は本屋にも残念な本が少なくありませんが、これは中々の良書だと思います。
 
当院には、「口コミサイトで地域NO.1とかいう鍼灸院に行ったが全く改善しませんでした」とか、「有名な大学病院で研修を受け、名医だとか紹介されていた鍼灸師の施術を受けたが全く効果がみられなかった」などという患者がたまに来院しますが、ほとんどのケースで完治させるか、短期間で改善させています。
 
 

「レベルの低い病院は存在してはならない」

ドイツの心臓外科医として、日本人初の永代教授に任命された南和友医師はかつて某番組で「(ドイツにおいては)病院のレベルが高くなければ、そこに病院が存在することこそが悪いことなのです。」と発言されました。私は初めてこの言葉を聞いた時、「その通りだ」と合点しました。南氏曰く、日本の心臓外科医の平均的水準は世界的なレベルで見ると未だ相当に立ち遅れているらしく、その原因として旧態依然たる医師の研修システム、多すぎる病院施設、未だに出来高払い制が抜けきらない保険制度、学会による専門医資格認定の問題点などを挙げています。
 
これらは現在の日本の鍼灸業界にも共通する悪しき状況であり、この愚かしい現状に気が付いて改新すべく何らかのアクションを起こす鍼灸師が増えない限り、医学界同様、何ら変化しないと思われます。多くの医師をはじめとする医療者や患者が口を揃えて言うように、日本の鍼灸治療は極めてレベルが低く、ほとんど信頼されることもなく、いわゆる「代替医療」のひとつに成り下がってしまったままです。実際に鍼灸を「治療」であると捉えている医師や患者は少なく、あくまで慰安的な民間療法としか認識されていないようです。
 
それに加え、多くの鍼灸師がこの現状をしっかりと認識していないばかりか、慰安的療法に自己陶酔するばかりで努力する様子もなく、医師や患者からの評判は下がったままです。ただただ己の生活のために惰性で治療するばかりで、日本鍼灸界の現状を憂う鍼灸師は少ないようです。自己保身や名誉、物欲、肩書きなどに囚われた一部の鍼灸師の姿は悪徳政治屋と同様、あたかも現世を彷徨う餓鬼のようです。
 
南氏の言う「レベルの低い病院は、存在すること自体が患者にとっての悪である。」という至極当然な事実を理解し、より良き治療を提供出来るよう日々精進している鍼灸師は、私がこれまで見てきた限りでは片手で数えるくらいしか存在しません。特に日本の鍼灸界において著名な人物で該当すると思われるのは、残念ながら私の師匠である浅野周先生だけであると思われます(平成以降、数多くの中国針灸書を翻訳するなど、浅野先生ほど鍼灸に尽力し、実際に多くの患者を治し、感謝され、鍼灸業界に貢献したと言える鍼灸師を他に知りません)。
 

真の治療 

鍼灸は本来「治療」であるべきであり、「保健」や「慰安」であることはなるべく避けるべきだと考えています。短期間で患者を治し社会復帰させることが出来なければ、真の意味で治したとは言えないのです。したがって、出来るだけ少ない回数で不快症状を緩和させるか、完全に無くすように努めて治療しなければなりません。当院では、ぎっくり腰は1~2回の治療で背を伸ばして歩けるようになり、軽度の慢性腰痛や慢性頭痛、むち打ち症、頚椎症ならば数回の治療で完全に痛みや不快感が消失することがほとんどです。その他、慢性の肩こりや胸背部痛、五十肩、捻挫、手のしびれ、冷え性、無汗症、突発性難聴、耳閉感など、専門病院や専門外来でも治らない便秘、不妊症なども、時間はかかりますが改善させることが可能です。
 
例えば、突発性難聴は発症して1か月程度であれば、2~3回の施術で聴力が回復し、完治するケースがほとんどです。聴力が限りなくゼロに近くても、発症して間もなければ完治させることが可能です。膝の痛みや腱鞘炎なども軽い場合は1~3回くらいで完治させることが可能です。偏頭痛や群発性頭痛においてもほとんどのケースで2回程度の施術でそれまで現れていた症状が半減するか、消失します。
 
このような著しい効果は一般的な日本の鍼灸治療においては極めて稀なようで、どこに行っても治らなかったような患者さんが当院で治ると、「鍼は効くんですね」とか、「今までの治療は何だったんだろう」とか、「もっと早くこういう治療を受けていたかった」などと皆口を揃えたように言います。
 
医学は日々進化していると言いますが、様々な慢性痛に悩む患者が減る気配は一向にありません。むしろ、増えている感があります。また、世界的に最も多い患者は慢性疼痛の患者であり、当院はそういった患者の一助となるべく日々研究を続けています。当院の治療法、鍼灸治療に対するスタンスは、現在の日本の鍼灸業界においては完全にアウトローですしかし、重要なのは結果であり、目の前で苦しんでいる患者を治せなければ、高尚な理論はもはや空論でしかありません。
 

日本鍼灸の現状 

現代日本において、鍼灸は未だ国民に受け入れられていないに等しい状態です。なぜなら、日本に存在する鍼灸流派の多くがいわゆる経絡治療や弁証治療といった、非科学的かつ再現性に乏しいモノばかりのようで、マトモに治せる鍼灸師が極めて少ないからであると思われます。最近は動画サイトなどでそういった大衆を惑わすような映像がワンサカ出回っていますが、某ネット掲示板などであれはカルトではないかと囁かれているように、正常な判断力を備える方でしたらその異常さに気が付くことと思います。特に鍼の第一人者などと騒いでいる輩や、鍼灸業界でヨイショされている自分に陶酔している輩、肩書や権威などに固執する輩などには注意が必要かもしれません。
 
当院にはたまにそういった怪しい鍼灸師の洗礼を受けた患者さんや、洗脳から脱したと思しき患者さんが来院しますが、鍼灸界の評判とは裏腹に「あれだけ有名な鍼灸院に半年通ったのに全く良くならなかった」とか「治療後は少し良くなった感じがしたけど、帰り道ですぐに痛みがぶり返した」などと率直な感想を言ってくれます。確かに、中にはとても難治性の患者さんもいます。しかし、今のところはそういった鍼灸院で治らなかった患者さんでも、当院で簡単に治ることが少なくないので、そういう鍼灸院に対する私や患者さんの怪しむ気持ちが日々強まっていくわけです。
 
ちなみに、某鍼灸学校では入学すれば3年間に渡って強制的に〇×治療の論理と実践を叩き込まれるため、ほぼ98%くらいの学生がその鍼灸流派の思想に染まってしまいます。当然ながら、鍼灸学校に入りたての頃は誰しも鍼灸に関しての知識は全くありませんので、治療法に関しても門外漢です。その学校では入学してすぐ、〇×会の治療法が書かれた本を強制的に買わされ、厚生労働省のカリキュラムとは別に〇×会の理念や思想、治療法を徹底的に叩き込まれます。まぁ、傍からみればカ〇ト教団と大差ない感じのやり方です。そもそも学生は様々な治療法を学ぶ自由があり、その必要性があるはずなのに、これはまぁ酷いやり方です誰しも入学後に〇×会の治療法が強制されるなんて知らないだろうし、強制的に〇×治療の教科書などを買わされるなんて思ってもいないでしょう(〇×会の治療法が書かれた本を入学早々買わされることには驚きました)。400万円近くの学費を払っているのだから、学生の多様性と可能性を鑑みるならば、様々な治療法を教えるべきだし、多少は学校のカラーが出るとは言えども、あれはやりすぎでしょう。治療法を強制するならば、入学前に、その旨を事前に告知するのが正当なやり方だと思います。
 
他校出身の鍼灸師に聞いてみても、ほとんどの鍼灸学校では、様々な治療法の概論を紹介するだけで、あとは学生が自由に治療法を選べるように配慮されているようですが、これが当然の事と思います。逆に言えば何の治療法も覚えないまま卒業するわけですが、私は極端に偏った治療法を叩き込まれて思考が偏った鍼灸師になるよりは、まずは真っ新な状態で、自分の道を模索してゆく方が良いのではないかと思うわけです。鍼灸治療は刺してナンボなのに、最初から「刺さずして気の流れを整える!」なんて、まずは「気」の存在を疑うことを許さないような治療法なんてものが全てだと教えこまれてしまったら、多くの患者の不信感を余計に煽りかねません。多くの患者は気の存在なんてことには関心がないし、信じていないし、胡散臭いものだと決め込んでいる場合が多いのですから、基本的な鍼灸師のスタンスはまずは中庸であるべきであり、可能な限り中立的な観点から患者と向き合うべきでしょう。まずは鍼灸に存在する科学的なもの、非科学的なものを、バランスよく教えて、その後に学生が右へゆくのか、左へゆくのか、はたまた中庸をゆくのかは、本人の意志にゆだねるべきでしょうかつて、野口晴哉は「教育とは強制するものではない。ただ、自然とやるように促すだけだ」というようなことを言っていましたが、どうも某鍼灸学校では可能性ある学生達を、それとは真逆な感じで教育しているように思えて残念です。
 
こうして2年ほど〇×会の思想をゴリ押ししていると、クラスメイトの80%以上は〇×会を崇拝するようになり、会費を払って〇×会の会員になったり、〇×会が定期的に主催する高額なセミナーに参加するようになってきます。熱心な信者は海外のセミナーにも参加しますし、卒業後は〇×会本部のスタッフとして勤務したり、セミナーのスタッフとして参加したりして、完全に「取り込まれて」しまうようになります。こうなると、患者をいかに治すかという最も重要な視点を客観的に持てなくなるようで、〇×会の独特な雰囲気の思想にドップリと飲み込まれてしまい、より良い治療法を探ることが二の次になってしまうようです。
 
元々は多くの患者を治したいという一心で鍼灸治療を学ぼうとする学生が大半を占めているわけですが、現在の鍼灸業界ではそういった学生の無垢な心情を逆手にとって、治療を「商品」として、法外な値段のセミナーなどといった形で売りつけているケースもあります。その証拠に〇×治療を3年みっちり学んでも、何も治せず、苦労して貯めた資金で開業しても患者が一向に集まらず、3年絶たずに廃業する鍼灸師も少なくないようです。こういうやり方は一般的には会員商法と呼ばれています。
 
患者数の多い頭痛、腰痛、背部痛など、何一つとして高い確率で治し続けることが出来ない治療法でたまに治ることがあったとしても、それはまぐれでしかないでしょう。結局のところ、何かに属したり徒党を組んだりすることによって、己の鍼灸師としての社会的な疎外感から無意識に逃れようとしたり、己を組織の歯車として組み込むことで心に出来た隙間を埋めようとしているのでしょう。そんなことでは一流の鍼灸師として多くの患者から信頼を得ることなど到底能わず、一部の信者からもてはやされるだけで終わりかもしれません。
 
多くの鍼灸学校生は〇×会に入り浸って3年も経つと、〇×会の治療法がこの世で最高のモノであると信じ切ってしまうようになるようで、他の流派の治療法に見向きもしなくなり、果てには他流派や最新の鍼灸治療を排斥するようになってしまうことが少なくないようです(要するに鍼灸学の勉強がそこでストップしてしまい、〇×会の霞のような「治療法」にしか関心が持てなくなってしまうようです。)。中国では日々鍼灸治療が進化していますし、より効果的な治療法が流派を問わず公にされ、より良い結果が出るように学者達が研究を進めています。ゆえに、私は中国語を学び、毎年北京で鍼灸関係の新刊を買い付けに行って独自に最新の鍼灸治療を研究しています。一方、日本のそういった一部の鍼灸に洗脳されてしまった鍼灸師は思考も世界も完結してしまうためか、鍼灸師として進化することがなくなってしまうようです。これは〇×会に限らず、日本の多くの鍼灸流派に言えることかもしれません。しかし、たとえ中国へ留学して鍼灸の勉強をしていても、相変わらずな鍼灸師もいるのは事実です。
 
ある鍼灸流派では「鍼灸で先天の精を補う!」とか、「気を動かして深部の冷えをとれば病は勝手に治るだろう」と主張しています。鍼灸が参考にすべきは中医学だと思われますが、先天の精は脾胃つまりは飲食によって補われることは中医学の常識です。また中医学では体が冷えようが熱しようが、それ自体は必要な生理現象であり、冷えが完全悪であるとはしていません。つまり、中医学では体の陰陽のバランスを取ることが最も重要であり、冷えること自体が悪であるという考え方はせず、体が熱していれば冷やすことも重要であるとしてます。これは現代医学的にも常識です例えば中国の南方では昔から 涼茶と呼ばれる健康茶で体をクールダウンさせる習慣があります。だいたい、〇×会ではほとんど刺さないような浅鍼がメインですが、彼らの言う深部の冷えがインナーマッスルの慢性的な収縮による血液循環不全であると仮定するならば、「刺さずして治す!」という〇×会の理論も破綻していると推察されます。なぜなら、針は硬い深部の筋肉に刺すことで、軸索反射によって血管が拡張し、血流が改善して、冷えが治ると推察されるからです。表面だけにしか刺さないような浅鍼治療に大金を費やすのであれば、赤外線を当てたり、温泉に入った方が安価で明らかな効果を体感できるでしょう。そういえば、〇×治療の信者だった某学生は、夏場でも「体を冷やしてはいけない」と言って、常に厚着をしていました。この一例をみても、〇×治療の理論が如何に危険で異常であるかが垣間見えると思います。
 
私は学生だった頃、某施術所で〇×治療のボスの右腕と呼ばれた著名な先生の鍼灸治療を毎週1回受けていました。しかし、2年以上受け続けても私の慢性腰痛は全く良くなる気配がないので、私はだんだんと〇×治療に疑問を抱くようになってきました。また、私は独自に鍼灸学や中医学の勉強を進めていくうちに、〇×治療における上記のような理論破綻を見出したりして、いよいよ〇×治療を疑い始めたのでした。
 
そんなこんなで、ある時、夜中にネットサーフィンしていた折、北京堂鍼灸という怪しげなHPを見つけたのでした。そして、それから数日経った頃、偶然にも学校の授業で「北京堂という凄まじくマニアックな鍼灸のHPがある」と紹介されたこともあって、北京堂への興味がより強くなり、どうにか自分の腰痛を治してもらえないものかと、藁にもすがる想いで北京堂へ行くことになりました。北京堂へは6回くらい通ったと思います。何よりも驚いたのは、それまで〇×治療で3年近く治らなかった腰痛がたったの1か月程度で治ってしまったことでした。これがきっかけとなって、〇×会によってかけられていた洗脳が完全に解けたのと(まぁそんなに洗脳というほどひどくはなかったですが)、鍼治療はちゃんとやれば効くものなのだ、ということがわかり、北京堂創始者である浅野周先生に弟子入りさせてもらうことになりました。
 
〇×治療をやっていた時は、何一つとして明確に鍼で治せるもの、治せないものの区別さえつかず、他の信者と同様に只々漠然と治療をしていました。しかし、北京堂式を学びながら実際の臨床現場をこなしていくうちに、鍼で確実に治せるものと、治せないものの区別がはっきりとつくようになってきました。〇×治療には、「何でも治せる」という思想を患者および術者双方に刷り込ませる、という事実があります。つまり、何が治せて、何が治せないのかを明確にしていません。ゆえに、治療効果を科学的に検証することも、客観的に判断することも困難で、そもそも、誰もそういったことをやろうとはしていないようです。また、「体のすべての不調は気の滞りによる身体の冷えが原因であり、同時に後天の精を鍼灸で補うことによって全ての不快症状は快方へ向かう。」という非常にあいまいなとらえ方が治療法の根本にあるため、「患者が治ろうが治るまいが、とりあえずは脈証や腹証が整えば良い。あとは勝手に患者の自然治癒力で何とかなるだろう。もし何とかならないならば、それは患者に原因があるのだ。」ということになることも少なくないようです。ですから、治療者は患者が治らなくとも、ほとんど意に介していないようなスタンスが常態化して来るのかもしれません。
 
現在、鍼灸といえば「あやしい、痛い、治らない」と相場が決まっています。周りの人に「鍼灸はどうかな?」などと聞けば、大抵肯定的な言葉は返ってきません。その主な原因は、前述したような人々が未だ日本の鍼灸業界を牛耳っているからだと言えるかもしれません。
 

孤立する鍼灸 

大正期から昭和期にかけては、一種の健康ブームがあり、たくさんの健康法が生み出され、多くの療術家が活躍しました。西式健康法や自彊術、肥田式強健術、野口整体、桜沢式養生法などなど…。今でもその一部がブームになり、一般人にも浸透してきました。
 
西式健康法も数年前までは下火になっていましたが、現在では有名人が健康維持のために温冷浴をやったり、プチ断食と称し西医学(西式健康法の別称)をつまみ食いする女性誌も出てきたりして、盛り返してきました。
 
一方、鍼灸についてはどうでしょうか。昭和期には柳谷素霊や沢田健といった鍼灸の名人と言われる人々が活躍したり、ニクソン大統領の訪中で一時的な鍼灸ブームをみせましたが、今では名人と呼べるような鍼灸師はほとんど見当たりませんし、人気もさっぱりです。おそらく、未だに、多くの鍼灸院で治療効果がイマイチだからでしょう。したがって、現在、鍼灸がメディアに純粋に取り上げられることも少なく(歪曲、誇張されたパフォーマンス的な内容ばかりです)、ブームになることもありません。
 

刺すべきか刺さざるべきか 

最近、鍼灸関係のホームページをあれこれみてみると、「優しい鍼」とか「痛くない鍼」とか謳う鍼灸院をたくさんみかけます。つまり、鍼灸関係者は、そういう風にアピールすれば、鍼灸院に患者が舞い込んでくると思っているわけです。しかし、そういうユルく、ヌルい鍼で効果があるのかと言ったら話は別です。大体、そういう鍼灸院は治療法や効果については詳しく書いていないようです。
 
深く刺すか、浅く刺すかということは鍼灸界における永遠のテーゼのようですが、実際は深く刺さないと効果がないようです。なぜなら、そういうユルい治療を受け続けて一向に症状が完治しない患者が最終的に当院に訪れ、一回の治療で効果を実感するパターンが非常に多くみられるからです。

ちなみに、霊枢や針灸甲乙経などの重要な中医経典に記されている通り、皮膚病は梅花針などで皮膚表面へ刺鍼したり、頸椎症や腰椎椎間板ヘルニアなど、骨に異常が見られる場合は、深層筋へ刺鍼するなど、刺鍼深度は病態によって変化させなければならないことは大昔からわかっていることです。したがって、そもそもは、「浅く刺した方が効くんじゃ!」とか、「深く刺すのが最高じゃ!」などと論議したり、断言してしまうこと自体が、中医経典を読んでないというアホな鍼灸師であると明言するようなものであります。ゆえに、浅く刺すこともあれば深く刺すこともある、というのが正しい回答になりますが、特に疼痛疾患、運動器系疾患においては、主には深く刺さねばならぬような病態が多いです。
 
ちなみに、昭和期にカリスマ的存在で、現在も鍼灸界の名人として神格化されている柳谷素霊は、4寸くらいまでの長鍼を使っていたようです。しかし、どちらかというと経絡説支持者で神秘主義的傾向にあった柳谷素霊の著書を何冊か読み返してみると、現在の私の鍼灸に対する考え方とは大きなズレがあるため、私は他の鍼灸師に比べるとかなり離れた位置からより客観的かつ冷静に、柳谷素霊の著書に接しています。また、江戸期に活躍したと言われる杉山和一も、彼について詳しく知らぬまま神格化している鍼灸師が非常に多いようです(実際に杉山和一に関して何も知らぬまま、江島杉山神社に毎年お参りしている鍼灸師も多い)。

 
鍼灸で最も重要だとされる古典『霊枢・官鍼』にも「病浅鍼深、内傷良肉、皮膚為癰。病深鍼浅、病気不瀉、反為大膿(病が浅い部位にあるのに深刺すると、正常な組織が破壊され、皮膚に腫瘍が出来る。病が深い部位にあるのに浅刺すると、病気を瀉すことが出来ず、化膿する。)」との記載があります。柳谷素霊も芸名の通り霊枢と素問を重視してたようなので、深刺する論拠の一つとして官鍼編の文章を知っていたのでしょう。
 
日本で過去に活躍した鍼灸師で、私が唯一支持出来るのは、大久保適齋くらいです。当然、彼の存在を現代の鍼灸師に知らしめた代田文誌や、鍼灸の科学化に尽力した木下晴都も偉い人だと思いますが、やはり、一番となると大久保適齋です。大久保適齋は明治期の医者だったようですが、今の日本の鍼灸師よりも遥か昔に鍼の適不適を見極めていましたし、技術的なことに関しても、現代の鍼灸師など足元にも及ばぬくらい先を行っています。私も現代の鍼灸師のレベルの低さには諦観の念さえ持っているのですが、すでに明治期にも私と同じような感覚で鍼灸界を捉え、批判している大久保適齋のような人が存在したことには、本当に驚きました。大久保適齋こそ、日本の鍼灸学校の授業で教えるべきだと思いますが、彼の存在を知らぬのか、意図的なのか、教科書には彼の名前が記されていません。当時では珍しい、大久保適齋はいわゆる科学派であり、経絡の存在を否定していたようなので、彼の言は現在の日本鍼灸界の大御所とか呼ばれている老害を全否定することになりかねないので、私個人としては意図的に外されているのだと推察しています。私とスタンスが似ているので、彼の至言を一部抜粋しておきます。
 

『余の手術は長鍼にして、其の刺鍼點僅かに十五六點に出でず。而して全体を感通せざる所なし。杉山氏は其の刺點數百に至る。其れ此如く何の理に因って其の多數を要するや、之を知るに苦しむ。…余の鍼術現今泰西の解剖生理病理に的合するも、其の診断上、病症の的否を判ぜざれば、亦た無用の長物に属す。故に余の鍼術に従事せんと欲するものは、手術鍛錬の如何より、寧ろ鍼治解剖の精確と鍼理病理の関係及び病症鑑別に熟達せんを要す。是れ余の發明する所にして、他流と其の趣を異にする所以なり。』(大久保適齋著「鍼治新書 治療篇 復刻版」昭和48年、医道の日本社、)』より引用)

 
当院でも、腰臀部や骨盤周辺部では3~5インチくらいまでの特注の鍼を使っています。鍼の太さは0.16~0.8mmくらいまで、50種類くらいの鍼を細かく使い分けています(日本の一般的な鍼灸院では長さ1寸6分、太さ0.24mmくらいまでしか使わないようです)。当院では筋肉や脂肪の厚み、刺入の角度、弛めたい筋肉の表面積の広さ、患者に必要な刺激量の強弱などによって鍼の種類を決めるのですが、ほとんどの患者はいわゆるインナーマッスル、骨に近い部分の筋肉が硬くなっているので、場合によっては太く長い鍼を使う必要が出てくるわけです。疼痛の多くは筋肉が神経を締めつけることによって起こるので、その硬くなった筋肉に刺鍼して弛めてやれば、基本的には痛みは消えます(メカニズムについてはこちら)。実際には、深い部分の筋肉に刺鍼しなければ効果が無いという症例がほとんどです(基本的に児童は刺鍼しないか、浅刺で速刺速抜するが、小児麻痺などにおいては中国の本に書かれているとおり留鍼した方が、著しい効果出る。ちなみに、日本の鍼灸師の多くは児童に安全に刺鍼出来ないようだ。ゆえに、ローラー鍼などで誤魔化し、大した効果がみられないケースが多い)。
 
硬くなって血液の通っていなかった筋肉に血液が流れれば、当然血液で運ばれてくる酸素や栄養が筋肉に供給され、細胞間での代謝が正常に戻り筋肉が再活性するので、筋肉に柔軟性が戻り、さらには潰されていた神経が解放されたり老廃物が分解・排泄されたりするので、痛みも消えるという道理です。一回の刺鍼で弛みきらないほど硬化した筋肉の場合は完全に弛むまでに神経が再刺激されて(つまり、それまで途絶えていた神経の疎通が正常に戻る)、まれに痛みが一時的に強く出ることがありますが、大抵は数回の治療を継続することで完全に痛みが出なくなります。
 

「無痛」違い 

神経ブロックでは神経の働きを麻痺させて一時的に痛みを消すだけなので、筋肉が弛み、完治することはありません。しかし、鍼治療では筋肉を完全に弛めることが可能なので、大抵は痛みも消えて完治します。
 
ちなみに、触診して明らかに筋肉が硬化していても、痛みを感じず、「無痛」を主張する患者に時々出遭います。神経は筋肉の間を走行していることが多いので、筋肉が完全に神経を潰してしまっている場合、痛みが出ません。つまり、筋肉がコリすぎているわけです。このような場合は、大抵、慢性的に痛みを持っていたことがほとんどです。こうなると、刺鍼しても中々治りませんし、完治するまでに時間がかかります。ストレスの多い現代人で、何もせずに慢性疼痛が消えた時は体がレッドゾーンに入っていると言えるでしょう。身体が何らかのサインを出している内に、しっかりとケアしてあげないといけません。
 

鍼灸の神秘性に囚われる 

日本の鍼灸治療には経絡治療や弁証治療というものがありますが、その効果は未だ明確な科学的根拠が明示されておらず、オカルトの域を出ていないと言えるかもしれません。何より鍼灸の本場中国に比べると、日本鍼灸業界自体のレベルがまだまだ低いように思われます。日本の鍼灸は中国に比べて300年くらい遅れている、という学者もいるようです。とにかく遠隔治療の類は効果が一定していないので、投げ出す者も多いようです(鍼灸師をやめるキッカケにもなりやすい)。どんな治療法でも一定の効果を、高い精度と高い確率で何度も再現出来なければ、仮に治ったとしてもその治療法はマグレでしか有りませんし、エビデンスもなければ科学でもありません。そんなことでは、特に鍼灸師以外の西洋医学従事者には理解されず、受け入れられることもないでしょう。ましてや、患者に受け入れられるはずがありません。したがって当院では神経内科学的、解剖学的、生理学的な理論に基づいた鍼灸治療を中心にして、大きく効果をあげています。その証拠に論拠があいまいであったり、科学的根拠に乏しい理論、一部の人間しか理解できないような論法(「気」が云々とか)は採用しないので、当院での治療効果は比較的一定しています。
 

 

中国鍼灸と日本鍼灸 

中国では多くの臨床比較試験が行われ、どの治療法が、どの病気に、どれだけ効いたかをデータで出しています(まぁ、データや%には怪しいモノが沢山ありますが)。したがって、その手の本もたくさん出版されています。つまり、鍼灸を少しでも客観的、科学的に検証しようという動きがもう何十年も続いているのです。鍼灸に関しては、やはり本家本元の中国がずっと先を進んでいます。残念ながら、日本は、鍼灸に関しては中国に比べ少なくみても50年くらいは遅れている感があります。そんなわけで、淺野周先生が中国で次々と出版される鍼灸関係の書籍を翻訳して出版したり、まだ日本で公開されていない古い文献などをホームページ上で公開するわけです。そして、浅野周先生や我々が、日々独自に研究した内容を実際の治療にフィードバックし、他院よりも遥かに高い治療成績を維持することが出来ているのは、単なる偶然ではありません