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早発閉経の予防と治療(『中華医薬』に学ぶ実際の症例)

中国伝統医学と最新の中国針灸研究の一環として、最近はCCTVばかりを観ている。特に中华医药という番組が最も鍼灸業に役立つので、HDDに保存しては暇をみて内容をまとめている。

 
中华医药では、中国国内の少数民族の伝承医学や、最新の針灸術、家庭で行える養生法などが主に紹介されている。専門家も素人も楽しめるような、明快かつ有益な番組だ。日本には「伝統医学に基づいた鍼灸を伝授します!」とか、「古典に基づいた鍼灸治療をしています!」とか、「ダイナミックな鍼灸で治します!」などと怪しく騒いでいる鍼灸師が少なくないけれども、そういった輩が主催する高額なセミナーやら講習会に出るくらいならば、中国語を勉強して中华医药を観る方が、日本の鍼灸師にとってはよっぽど有意義であるかもしれない。
 
 


 
 
今回参考にしたのは、卵巢早衰(luanchao zaoshuai、早発閉経・早発卵巣不全・POI)と診断された3人の女性の臨床例と、それらに関する針灸治療と中药(zhongyao、漢方薬)の処方、そして予防法である。
 
 
【過剰なダイエットが原因となったケース】
北京に住む21歳のXさんは一般的なOLだ。身長は165cm、体重は60kgだったが、極度な食事制限によって5か月で15kg減量し、その後すぐに生理が止まった。半年近く生理が来ないため、家族のすすめで病院で受診すると、早発閉経であることが判明した。生理が来なくなってからは手足の冷えが強くなった。医者は痩せすぎであることと、10%以上の急激な体重の減少で脳が過剰に反応したこと、長期間生理が止まったことなどによって、早発閉経が起こったのであろうと言った。
 
 
【過労とアイスの食べ過ぎが原因となったケース】
Yさんは百貨店の服屋で働いている。仕事が忙しく、毎日帰宅するのは21時過ぎだ。自宅では疲労感と冷えが強く、夏でも厚着で、就寝前には靴下を2重に履き、膝下には座布団を、首にはタオルを巻き、最後に手袋をして、やっと眠ることが出来る。しかし冷えを感じていても、就寝前にアイスを食べることが止められない。1日4~5本の棒アイスを食べるのが習慣になっている。寒いのだけれども、なぜか冷たいものを食べたあとは気持ちが良いのだ。また、手を冷たい水にさらすのも好きである。しかし、そんな生活を長期間続けているうちに、月経周期に異常出てきたため、病院へ行くことにした。問診を終えると、医者は早発閉経であろうと告げた。確定診断のため、卵巣機能を検査することになった。6つのホルモンの検査項目のうち、最も重要なのがFSHの値で、10以下だと正常範囲だが、Yさんの検査結果は87.5であった。この状態だと今後は更年期障害が現れ、老化が早まり、太ってくるだろう。そしてまた、肥満は様々な症状を引き起こすだろう、と医者は言った。
*FSHは10~20の間であれば比較的軽度、20~40の間であれば早発閉経の前段階、40を超えたら重症で、早発閉経になる可能性が高いと言われている。
 
 
【冷えと早発閉経】
中医学では冷えた食べ物は脾胃を傷つけると言う。しかし脾胃が冷えることと、早発閉経が起こることにどんな関係があるのだろうか。飲食をすると食べ物はまず胃に納まる。『黄帝大经』に「肾为先天之本(先天的な体の状態は腎が作用する)」「脾为后天之本(後天的な体の状態は脾胃が作用する)」と記されている通り、脾と腎には特定の関係がある。つまり脾と腎は互いに補い合う作用があり、例えば先天的に腎が弱くても、後天的に脾胃をしっかりと養生していれば、弱い体質を改善することが出来る。また逆に、先天的に強い体質であっても、不摂生を続けていれば、脾陽が傷つき、腎陽も虚して子宮に寒邪が入る。そして慢性的な冷えが子宮の機能を低下させ、月経に異常が出たり、妊娠出来なくなったりする。冷えを極度に怖がったり、手足が冷えるのは典型的な陽気不足の症状である。
 
 
【卵巣の養生について】
卵巣の機能が正常であれば養生は必要ない。もし正常であるのに養生し過ぎれば、それは害となる。中国では多くの女性が豆乳を飲むが、男性にも豆乳を飲む人が多い。しかし豆乳を飲んだからと言って、男性が女性になる事などは無く、実際には性ホルモンの変化は少ない。豆乳は植物性タンパク質を摂取出来る点や、その他の効能においては優れた食品であるが、あくまで卵巣を養う1つの方法であって、その他の養生が重要になる。では、自分の卵巣の機能が正常であるかどうかを日常的に見分けるにはどうすれば良いだろうか。まずは、基礎体温を毎日計測することである。毎日6~8時間の睡眠をとるようにして、起床したら床に就いたまま、舌の奥(*舌小帯の両側)に体温計の先端をはさみ、口を閉じて検温する。検温中は安静にして動かないようにする。検温前に起き上がったり、歯を磨いたり、洗顔してはいけない。毎日の基礎体温を記録することで、詳細な基礎体温表が出来上がる。これを医者に見せることで、医者は間接的に卵巣の機能を把握することが出来る。月経の正常範囲は21~35日周期であるが、28日周期が最良である。
 
 
【早発閉経から妊娠した女性】
Lさんは現在31歳、数年前に結婚し、結婚後はすぐに子供が欲しいと思っていた。しかし、仕事のストレスが強く、徐々に体に不調が現れ始めた。2013年11月、生理が3か月止まり、急激に体が冷えたり、突然多量の発汗が起こるようになった。病院へ行くと「生理が3か月も来ないのだから、妊娠しているのだろう」と医者が言った。しかし、妊娠していなかった。その後、検査で卵巣が正常に機能していないことがわかり、超音波検査では左右の卵巣が縮小していることが判明した。協和国際医療部へ行くと、早発閉経であると診断された。医者は「今後妊娠する確率は500万元(約1憶円)のロトくじが当たる確率に等しい」と言った。今後はホルモン療法をすることで、ある程度生活は改善出来ると言ったが、Lさんは妊娠出来ないと思うと、すぐにでもビルから飛び降りたい心境になった。子供を諦め、今後更年期障害や早まる老化に苦しむならば、ホルモン剤を飲み続けるしかないのかと思っていたが、友人の紹介で、藁にも縋る思いで、中医科学院針灸医院鍼灸科、房繄恭主任の治療を受けることになった。
 
 
【実際の針治療】
針治療はまず、頭部の三神穴(sanshenxue)と呼ばれる百会、神庭、本神をメインに行った。これらの穴位は精神や自律神経の安定に効果があるとされる。特に神庭の「庭」には「庭院(tingyuan)」の意味があり、精神の安定には重要な穴位である。本神もまた精神の調整には重要である。卵巣は視床下部と下垂体によってコントロールされているため、三神穴へ刺鍼することで、卵巣機能の調節作用に非常に良い影響が出ると言う。下肢の穴位も使う。三陰交、太衝、太溪だ。これらは肝と腎を補う作用がある。腹部は関元、背部は腎兪、八髎穴に刺鍼する。八髎穴は仙骨神経叢(*特に陰部神経)を刺激し、直接的に卵巣機能を調節する。針治療を受けるまで、刘怡然は体調が悪く、2週間ほどまともに眠れていなかった。しかし、初回の針治療で眠れるようになったため、精神的に楽になり、ストレスから解放された気がした。針治療を始めて半年経った2014年6月、超音波検査で縮小していた卵巣が大きくなっていることがわかった。そして同年10月に妊娠、翌年出産した。
 
 
【治未病】
中医学で最も重要な理念(思想)は「治未病(*古くは『黄帝大经』にある言葉で、病気の発生や発展を未然に防ぐこと。つまりは未病先防と既病防变。)」であり、まずは治療よりも予防が重要である。番組後半では如何にして早発閉経を予防するかを紹介する。早発閉経は軽度であれば自宅療養で改善するが、重度であれば病院で治療を受ける必要がある。自宅で出来る簡単な方法は棒灸である。早発閉経を予防するための重要なツボは関元だ。足三里や三陰交を使っても良い。三陰交は内踝の上3寸で、押して痛い部位をツボとする。三陰交は肝経、脾経、腎経が交わるツボであり、婦人科疾患においては重要なツボである。棒灸のやり方は主に3つあり、温和灸、回旋灸、雀啄灸のうち、どの方法を用いても良い。おおむね週3回または1日おきでも良いが、1回あたりの施術時間は15~20分に留め、火傷しないようにする。
 
 
【膏方】
早発閉経に用いられる膏方(gaofang、*生薬を高度濃縮したもの)は益経汤(yijingtang)で、清代の著名な思想家・書道家・医学家であった傅山(fushan)の『傅青主女科』に記された処方である。「用于治疗(yongyuzhiliao) 年未老(nianweilao) 经水断(jingshuiduan) 大补其肾水(dabuqishenshui) 兼补心肝脾之气(jianbuganpizhiqi)」と記されており、「年未老 经水断」とは、現代医学的に言う早発閉経のことだ。熟地(shudi)、当归(danggui)、白勺(baishao)は补肾柔肝の、人参(rencan)、白术(baishu)山药(shanyao)は补气健脾の、枣仁(zaoren)は养血安神(yangxueanshen)の、仲杜(duzhong)は补肾の、柴胡(chaihu)は疏肝解郁调经(shuganjieyutiaojing)の、丹皮(danpi)は活血通经(huoxuetongjing)の作用がある。
 
 
【卵巣の保養に良いお茶】
4種類の药材(yaocai、漢方薬)を用意する。1種目は桑葚(sangshen、クワの実)だ。桑葚は黒色であるが、一般的に黒色の食べ物は腎に対応している。その他、枸杞(gouqi、クコの実)、玫瑰花(meiguihua、バラの花)、大枣(dazao、ナツメ)を用意する。これらの材料を耐熱性のポットに入れて、お湯を注ぐだけでお茶になるが、玫瑰花は最後に入れるため、除けておく。桑葚、枸杞、大枣は事前に流水で軽く洗っておく。大枣はおおよそ5~10g使うが、小さければ3つ、大きければ1つだけでも良い。桑葚は軽くひと掴み、10粒程度、5gくらいで良い。枸杞も10粒程度で良い。中医の薬膳では少量の意味である「少许(shaoxu)」という言葉を良く使うが、これは軽くひと掴みくらい、おおよそ5g前後の量で、安全に用いることが出来る量である。玫瑰花は7、8個入れる。女性は美しいものを愛で、特に花が好きな人が多いが、玫瑰花を最後に入れることで、花の美しさを見て楽しめるため、心を喜ばせる効果がある。玫瑰花はまた、肝の通りを改善し、「行气活血」の効果がある。湯を注いで10分ほど経ち、ほのかに爽やかな香りがしてきたら出来上がりだ。湯が熱い場合は少し冷ましてから飲んでも良い。棕色(zongse、やし色)で少しコーヒーみたいな色になったら飲み頃だ。煮出してお茶にする場合は、玫瑰花を除いた3種を先に10~15分ほど煮出し(20分は超えないようにする)、玫瑰花は火を止めてから入れるようにする。1日1回程度を目安に飲む。お茶を作るのが面倒な時は、白湯を飲むのも良い。