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日本よた師ばなし

一部の繊細な感覚をお持ちの患者様においては薄々と勘付いておられるようですが、とにかく日本鍼灸界には衛生管理の「え」の字も知らぬような輩ばかりが増えて、困っている患者さんも多いようです。日本鍼灸界の神とか名医とか(医者でないのに名医と呼ぶこと自体が異常ですが)呼ばれているようなお方においても、滅菌バッグの基本的な扱い方さえ知らぬということは珍しくなく、今更驚くようなことではありません。
 
なぜ、そのような愚かしく惨憺たる現状になってしまったのかと言えば、2つのことが挙げられます。まず1つ目は、鍼灸師をとりまく「大きな組織」が、鍼灸業における衛生管理の重要さに気が付いていないのではないか、ということです。つまり、鍼灸師および鍼灸院、鍼灸整骨院における衛生管理を徹底させていないに等しい、ということです。特に、鍼灸学校において十分な衛生管理の仕方が教えられていないことに根本的な問題があるのであります(2010年頃の話)。
 
医師や看護師、歯科医師には常識として学校で教え込まれるオートクレーブの使い方や、カストや滅菌バッグの使い方さえ鍼灸学校の教科書には記されておらず(2010年頃)、教員である多くの鍼灸師も衛生管理についてはほぼ無知に等しい状況だと推察されます。実際に、私が卒業した某鍼灸学校においては、オートクレーブの使い方さえ授業でマトモに教えられることはありませんでした(一応使い方の概要は教えられましたが、プラスチック製の筒に鍼を入れて滅菌するとか、滅菌バッグを使わぬとか、鍼皿をハイタ―に漬けてから滅菌するなど、安全かつ正しい使い方ではありませんでした)。他校に通っていた鍼灸師にヒアリング調査をしても、このことについては大差ありませんでした。当時の教科書にはオートクレーブの使い方は愚か、鍼灸用具の洗浄に必須の超音波洗浄器や、殺菌に必要な紫外線消毒器、滅菌に必要な滅菌バッグ、シーラーの使い方など、滅菌法における基礎的な知識さえ記されていませんでした。最も重要な衛生管理の知識が欠如したまま国家試験を通過して、鍼灸師として独立してしまうようになっているのが、今の忌々しき日本鍼灸界の実際です。 
 
例えば、施術部の皮膚を消毒するために綿花をアルコールに漬け置きしている鍼灸師が未だにいます(漬け置きタイプの綿花も未だ販売されている)。消毒用アルコールは細菌が繁殖しないと思い込んでいる愚者もいるようですが、実際には過去に、某病院でセラチア菌繁殖による院内感染が報告されています。また、使用後の針皿をハイターに漬け置きしている鍼灸師がいるようですが、次亜塩素酸ナトリウムなど酸性の薬剤は金属を犯すため、鍼灸用具の洗浄が禁忌であることは常識です。細菌は物体の表面にある傷が多ければ多いほど繁殖しやすくなりますから、ステンレス製の針皿を洗浄する場合は酸性の薬剤を触れさせることは厳禁ですし、ブラッシング洗浄もしてはいけません。本来は器具専用洗浄剤であるタイフレッシュエースなど、弱アルカリ性の洗浄液を規定の量で希釈して、超音波洗浄器で金属表面を傷つけないように汚れを落とさなくてはならないのです。オートクレーブによる滅菌はそのあとです。
 
また某施術所では滅菌バッグを使用しないまま、鍼皿を保管、再使用していたようです(2010年頃。今はどうなっているかは知りません。)。使用の直前まで紫外線消毒器で保管してはいたものの、滅菌バッグを使用せずにオートクレーブを使っている時点で、すでに滅菌そのものが破綻していることは明白です。滅菌器のドアを閉めている状態では完全に菌が死滅していても、ドアを開けたり、汚れた手で針皿に触れた時点で、多くの細菌やウイルスが付着するということに誰も気が付いていなかったのです。そんな針皿を紫外線消毒器で保管しても、患者に安全な治療を提供出来るはずがありません。ちなみに、ある流派では現在でも「アルコールでの皮膚消毒は体を冷やすから消毒しない方が良い」などと指導しており、これはあはき法の消毒義務違反ですが、こういう現実があるのも事実です。
 
当院に来る患者さんからは随時他院の情報が色々入って来ますが、「時間と経費の無駄だからうちは抜針後に綿花で体液を拭き取らない」と言われたとか、鍼を使いまわしているのを目撃しただとか、施術ベッドのタオルや患者着がずっと洗われていない様子だとか、院長が手を洗わずに部屋の奥に置いた不潔そうな逆性石鹸でパシャパシャするだけで治療してたとか、「アルコールは冷えるからうちは消毒しません(←あはき法違反)」と言われたとか、床に落ちた鍼を使っていたとか、とにかくこの手の話は枚挙に暇がありません。
 
次に、日本鍼灸の衛生管理状況を貶めている2つ目の要因は、鍼灸師自身が専門学校を卒業した後も、能動的に衛生管理について学ばない傾向にある、ということです。つまり、鍼灸学校で正しき衛生管理を教わらぬまま現場に放り出されて、その後もロクに衛生管理法や滅菌法を自己学習する機会が無いまま、多くの鍼灸師が「先生、先生」と呼ばれてふんぞり返っているような状況が少なくないようです。
 
例えば数年前に、某鍼灸院の院長が一般ごみに使用済みの針やら血の付いた綿花やらを混ぜて捨てたとかで逮捕された事件がありましたが、あれは氷山の一角に過ぎぬのではないかと私は想像しています。なんせ、専門学校でまともに医療廃棄物(産業廃棄物)の処理の仕方を教えないのですから(今は知りません)、余程賢明な鍼灸師でない限りは、廃棄方法を誤っていること自体に気が付いていない可能性もあります。私も専門学校では具体的な使用済みの針および血の付いた綿花の廃棄方法や、医療廃棄物におけるマニュフェストのこと、廃棄用ペール缶の購入方法、産廃業者との契約方法などは全く教えてもらえませんでしたので、知りませんでした。しかし、私はずっと日本鍼灸界における衛生管理について疑念を抱いていたため、学校を卒業するとすぐに独学で医療現場における衛生管理や感染症対策に関して、書籍を買い漁って研究するようになりました。
 
そういえば先日、初診で当院へ来院された患者さんがいたのですが、またもや他の鍼灸師のアホさを垣間見せられた実例を1つ紹介したいと思います。
 
その患者さんは慢性の背部痛を訴えていて、他の鍼灸院に通ったが全く改善しないとのことで、当院へ来院されました。早速ベッドにうつ伏せになっていただき背中を見ると、起立筋の上に2つ、円皮針(ピップエレキバンみたいな針です)が貼ってありました。しかし、よく見ると円皮針がかなり汚れており、粘着テープがベタベタになっていました。これは素人の仕業か?、アヤシイなぁと思って、患者さんに「これ、自分で貼ったんですか?」と聞いたら、「治らなかった鍼灸院で貼られました。」と答えました。さらに私が「いつから貼ってるんですか?」と聞くと、「1月からずっとです。そこの先生に自然と剥がれるまで貼っておいてくれ、と言われたんです。」とその患者さんは正直に答えてくれました。1か月間も貼りっぱなしの円皮針はベタベタで黒ずんでいましたし、明らかに不衛生な状態になっていて、皮膚も少し炎症を起こしていました。私は愚かな鍼灸師の仕業に、またか、と呆れてしまいました。
 
そもそも、円皮針は絆創膏と同じで、使用する場合は毎日貼り換えるか、長くても2日程度で廃棄しなくてはなりません。なぜなら刺鍼した傷口から細菌感染を起こす可能性があるからです。特に、筋肉や脂肪組織がほとんどない耳においては、完全な無菌操作をせず長期間放置しておくと、容易に軟骨炎を起こしたり、粉瘤の原因になったりします。実際に中国でも過去に耳針で耳が腐って変形した、という症例がありますが、不勉強な鍼灸師はそんなことなど知らぬのだと思います。例えば、中学生などが消毒しないまま安全ピンなどで耳にピアスの穴を開けたりすることがままありますが、後々粉瘤を形成せしめたり、細菌感染を起こして腫れ上がったり化膿する、なんてことはよくあります。
 
だいたい、賢い鍼灸師であれば、「自然に剥がれるまで円皮針を付けておいて下さい。」などと言わぬと思うわけですが、実際に私が鍼灸学校の学生だった時も、付属施術所の授業中に「貼った円皮針をいつ剥がすべきか」ということで議論になったことがありました。適切な医学的知識を備えた健全な医療者であれば「細菌感染を起こさぬよう24時間程度で剥がす」と答えるのでしょうが、驚いたことに指導者であるはずの愚かな鍼灸師は、「体が必要としなくなれば自然と剥がれ落ちますから、勝手に剥がれ落ちるまで貼っておくのが良いのです。」と答えました。さらに驚いたことに、その愚言を聞いた大半の学生が惚れ惚れしたような顔つきで、ウンウンとうなずいていたのでした。こんなことやあんなことがあったため、私の日本鍼灸界に対する不信感は、学生時代からすでに始まっていたのです。
 
そもそも、円皮針を貼って放置していたら衣服に針がくっついたり、不意に床に落ちたりして、他者に刺さって感染症を引き起こす可能性もあります。それに、短針とはいえ使用後の円皮針は医療廃棄物にあたりますから、適正に処理しなければ法律違反になります。賢明なお方であればそういった想像が自ずと働くはずだと私は思うわけですが、やはり、もはや左様な鍼灸師には何かを求めること自体が無駄な労力なのかもしれぬ、と最近つくづく実感するわけであります。

    (終)