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鍼鎮痛の作用

 
ツボ(経穴)」に囚われることなく、硬化した深部の筋肉へ、確実に鍼を打つ。
②いわば、医学的に言う「ストレス鎮痛」が起こると推察される(学術的参考)。内因性モルヒネ様物質(β-エンドルフィン、エンケファリンなどの内因性オピオイド=「脳内麻薬」、オピオイドペプチド)多量に放出され、痛みの抑制系回路が活性化されると推察される。疼痛緩和・消失の第一相(Phase1)が出現。
*β-エンドルフィン…脳内では下垂体、視床下部に最も多いが、脳幹や中脳にも存在する。α、β、γ、δの4種が認められる。全てβ-リポトロピンの部分構造を備えているが、β-エンドルフィンの鎮痛作用が最強である。鎮痛作用の他、情動、錐体外路系の運動、ホルモン分泌、体温、消化管運動にも関与しているペプチドである。
*エンケファリン…中枢神経系の神経細胞内に存在し、主に痛覚経路に対しての抑制作用を有する。
*オピオイド受容体…内因性オピオイドが結合する受容体(レセプター)の一つ。μ(鎮痛、縮瞳、呼吸抑制)、κ(鎮痛)、σ(散瞳、多呼吸、躁状態の形成)、δ(平滑筋収縮の抑制)などの分類があるが、上記のエンドルフィンとエンケファリンにおいてはμとδに高い結合親和性がみられる。

刺鍼による反射で一時的には筋収縮が起こるが、刺鍼後30分以上の置鍼時間を設けることで、軸索反射による血流改善(血管拡張→神経への血流が増加→鎮痛作用)および筋弛緩の促進が見込まれる。同時に興奮していた交感神経が鎮静化する。

*軸索反射(じくさくはんしゃ)…鍼刺激による疼痛解消を証明する、生体反応の一つ。刺鍼でCGRPを含む第一次知覚神経終末が刺激されると、軸索反射によってコリン作動性神経の末端が反応する。その結果、アセチルコリンの遊離が増大した後、血管が拡張し、虚血性疼痛の原因であった発痛物質が排除され、疼痛が解消する。つまり、多くの疼痛は血流の局所的減少に起因するのであり、刺鍼によって血流が改善されれば、ほとんどの疼痛は解消される。

④抜鍼後10分~48時間ほど安静にすることで、硬化していた筋肉への酸素・栄養供給が徐々に再開し、絞扼(こうやく、=締め付けること)されていた神経が解放される。また、筋肉に酸素が供給されることで、痛みの原因となっていた老廃物の乳酸が、水と二酸化炭素に分解されると推察される。
⑤筋弛緩、乳酸の分解などによる疼痛緩和・消失の第二相(Phase2)が出現。硬化していた筋肉の割合と、弛んだ筋肉の割合が逆転すると、能動的に筋肉が回復するようになる。つまり、硬化している筋肉の割合が多ければ多いほど休息しても能動的に回復し難くなるが、鍼灸で他動的に筋肉を弛め、柔らかい筋肉の割合が増えてくると少しの休息でも自ずと回復しやすくなる。硬い筋肉が多い内は数日おきに刺鍼して、追い打ちをかけるように弛緩を促す必要があるが、ある程度筋肉が弛んでしまえば刺鍼する必要性はなくなり、余程強いストレスがかからない限りは再び筋肉の状態が悪化することはしばらくは避けられるようになる(完治した後の良い状態がどのぐらい継続するかは、遺伝的な筋肉の質と日常のストレスの軽重如何による。)。
*「硬化した筋肉」ではなく、いわゆる「ツボ」しか狙わない場合は、以下の作用が起こり難い。ゆえに、治療効果が見込めない場合が多い。または、一時的には良くなったかのような感じがするが、すぐ症状がぶり返す(←短い鍼で浅層部の筋肉しかゆるめていないためと推察される)。基本的に、多くの鍼灸師は「ツボ」のない筋肉へは施術しない傾向にある、ということを知っておくべきである。例えば、患部に「ツボ」が無い場合は、患部に近い「ツボ」や患部に関係する経絡のツボ、要穴などで遠隔治療することに囚われてしまっている場合が多い。つまり、患部に直接鍼を打ったり、灸をすえるという発想に欠けるか、それらを根拠無くタブーとしている場合が多いのである。現代の日本の鍼灸業界においては、古典に記されていることを一部だけ都合の良いように解釈して(例えば「難経」など)、特に鍼灸学校の学生はそれらをそのまま鵜呑みにする傾向が強く、現代医学的に咀嚼することは不合理かつタブーであるとされてきた。また、術者および患者が、鍼灸治療に神秘性を見出そうとする傾向が根強くあり、ゆえに現代まで神経学的、生理学的、解剖学的な鍼灸治療を探求しようという発想が生まれ難く、「ツボ」以外で病を解決しようという土壌が育まれて来なかったのである。確かに、先人が伝える「ツボ」の効用や刺鍼法を知ることは大切だが、古代の鍼と現代の鍼はその形状・性質が全く異なる点、科学の進歩によって人体の多くの未知が既知となった点を踏まえると、より科学的かつ医学的な鍼治療を同時に模索することが重要である。

 
*硬化した筋肉は、たった1回の治療では、完全にゆるまないことがある。また、筋肉が硬化していると末梢から中枢(脳、脊髄)へつながる神経が圧迫・障害され、神経そのものの伝導率が低下しているため、脳内麻薬が出にくくなっている場合がある(硬化した筋肉はいわば絶縁体に等しく、神経の伝導および血流を阻害する。)。その場合は1回目の治療では鎮痛効果を実感し難い。だが、治療を重ねるごとに筋肉がゆるみ、神経の疎通が再開するため、次第に鎮痛が実感出来るようになってくる。しかし、基本的には、1回目の治療で鎮痛作用がうまく働くようになる場合がほとんどであり、治療直後に痛みが緩和されているか、消失している。ゆえに、五十肩や頭痛、腰痛、坐骨神経痛、逆流性食道炎などで夜も眠れなかった、という患者が、治療を施したその晩からぐっすり眠れるようになるのである。