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灸は万能?

*灸はテキトーにすえても、蛋白変性が有効な疾患(アレルギー疾患やガンなど)ならば、一定の効果はあります。しかし、各種神経痛などには、いくら灸をすえようが効果がみられないことがほとんどです。特に、深層部の筋肉に問題がある、坐骨神経痛やぎっくり腰、慢性腰痛、慢性頭痛などには、灸は全く効果がありません。したがって、灸ではなく、鍼を中心とした治療を行わないと、完治は見込めません。ちなみに、鍼灸師の免許というものは、「はり師」と「きゅう師」の2つにわかれているので、灸ばかりにこだわって、灸治療のみを無理強いするような人間は「きゅう師」の免許しかもっていない、不勉強な人間かもしれません。鍼と灸はそれぞれ、効用が違いますので、「灸ですべての病を治す!」などとうそぶいている輩には気をつけましょう。

灸の効果と鍼の効果の違いを明確に理解し、その技をうまく使い分けている鍼灸師は、残念ながら少ないです。鍼灸の専門学校でその使い分けをしっかりと教えていないのか、または、あまたある鍼灸の流派においても、その使い分けをはっきりと区別していないことなどが影響していると思われます。また、「鍼灸師」という資格は一つの資格ではなく、「はり師」と「きゅう師」という二つの資格を合わせた名称であることからもわかるように、国家試験で「はり師」の試験だけに通過した者もいれば、「きゅう師」の試験に通過しただけの者もいます。つまり、「はり師」の免許しか取得出来なければ、当然ながら鍼治療しか施術出来ないので、鍼治療の良さをゴリ押ししがちになる可能性がありますし、逆に「きゅう師」の免許しか取得出来なければ、灸治療の良さばかりを主張するかもしれません。
 
昭和期には「灸の名人」と呼ばれる人々が存在しましたが、本当に実績があったかどうかは謎です。ここでハッキリさせておかなければならないのは、「灸は浅層部(表面上)の筋肉しかゆるめることが出来ない」ということです。最近流行りの「浅鍼」「優しい鍼」「刺さぬ鍼」をメインとする流派にありがちなのですが、そういう流派では「(灸の)熱を奥まで届かせるように(灸を)すえなさい」などと指導している場合があります。しかし、それはあくまで幻想・妄想の類でしかなく、実際に灸で深部の筋肉まで熱を加えることは不可能です。例えば、5階建てのビルがあったとして、最上階は太陽の熱を大きく受けるため、室内温度もそれなりに上昇するでしょうが、1階部分の室内に屋上の熱を届かせるのが不可能なのと同じです。人体を構成している骨格筋は重層構造になっていますから、最深層部の筋肉に灸の熱を届かせることが物理的に不可能なのは明らかです。まあ、熱刺激は視床下部を通るのでそれなりに影響はあるでしょうが、微々たるものでしょう。
 
当院では、以下に記したことなどを前提にして、鍼と灸を明確に使い分けています。前述したように、灸だけで腰痛が治るとか、坐骨神経痛が治るなどといって、体中を醜い灸痕ばかりにされた患者さんに出会うたびに、治療レベルの低い鍼灸師(灸師)に憤慨してしまいます。
 

《灸の種類と効用の違い》

↑無加工のもぐさ。画像上はいわば「粗もぐさ」、下は「良質もぐさ」。前者は火力が強く臭いがキツい。後者は火力が弱く香りが良い。用途により使い分ける。

↑棒灸(ぼうきゅう)。中国では艾条と呼び、様々な種類が販売されている。また、5年以上熟成させたもぐさが原料の棒灸は「極品(最高級品)」とされる。

↑台座灸(だいざきゅう)。台紙の厚みによって火力を調節してある。台紙が厚くなるほど皮膚へ加わる熱量は低下するが、湿度や風量などの環境因子によって熱量が容易に変化するので、火傷しないように注意が必要である。


現在、実用的に使えるお灸は3種類あります。①無加工のもぐさ、②もぐさを棒状に圧縮して和紙で包んだ棒灸、③もぐさを棒状に圧縮して和紙で包み紙製の穴あき台座と合体させた台座灸、です。①は手で適当な分量を適当な圧力で固めてからすえる必要があるので、熟練していないと熱量の調節が困難です。また、火傷したり灸痕が残る可能性があるため、素人には扱いにくい素材です。お灸は熱くなるまですえれば効果が高まるというものではありませんので、ひどい火傷が残るまですえる必要はありません。極度に熱くなるまですえると、筋肉も血管も収縮してしまいますから、逆に病状が悪化することさえあるのです。また、糖尿病患者や、免疫力が低下した易感染傾向にある患者においては、火傷を負わせることは生死に関わりますので、熱い灸は絶対に避けなければなりません。
 
しかし、軽い火傷が出来るくらいの熱い灸をすえた方が良いケースもあります。つまり、ガン患者やアレルギー性疾患の患者においては、灸で軽く皮膚を火傷させ、意図的に蛋白変性を起こすことによって、NK細胞を増やし、免疫機能を高めることが可能になるのです。かといって、たくさん皮膚を焼けば効果があるかというとそういうわけでもなく、数か所を軽く小さく火傷させるだけでも十分に効果があります。ちなみに、中国では灸の蛋白変性効果を応用させた火針という鍼が実用化されており、火傷の痕を最小限にして蛋白変性を起こすことが可能になっています。
 
基本的には、灸は心地よいくらいの温かさを感じる程度の熱量で用いるのがベストです。したがって、自宅で行う場合は①よりも、②か③を使うのが良いでしょう。②の棒灸は完全な輻射熱(ふくしゃねつ)で温めるため熱量の調節が容易(ようい)ですが、ほかの灸に比べて煙が多く出るのと、灰が患部に落ちやすいため、使いこなすには慣れが必要です。また、施術中は片手でもぐさを持ち続けていなければならないため、施術部位によっては誰かの補助が必要になります。③の台座灸は火をつけたら患部に貼り付けて置くだけですので、とても簡単です。しかし、直接灸である無加工のもぐさと間接灸である棒灸のアイノコのようなお灸ですので、熱量に注意しないと火傷になることがあります。また、③と同様に施術部位によっては誰かの補助が必要です。とはいっても、慣れれば素人でもうまく使いこなせますから、①よりも安全かつ効果的に活用することが可能です。当院では患者さんがご家庭で気軽に使えるように、品質の良い棒灸と台座灸を厳選し、市場価格の半額程度で販売しています。

《灸の効用》

灸には大きく分けて、温熱による効果と蛋白変性による効果があります(鍼とは異なる効果)。温熱効果は風呂に入るような効果と似た感じですが、蛋白変性は皮膚を焼くことで起こる、灸独特の効果です。灸による蛋白変性効果とは、皮膚を焼くことで皮膚が生体にとって異物になり、異物と認識した免疫系が活性化されることです。つまり、蛋白変性により体内の白血球数が増えるので、結果的に免疫力が上がります。蛋白変性を利用した灸治療はガンや免疫系疾患、アレルギー疾患などにも一定の効用があると考えられ、病院においても活用され始めています。ちなみに、灸で使うもぐさの成分はヨモギ100%で、チネオールという成分が含まれているため、薬理的な効果もあると言われています。

《灸のすえかた概要》

①温熱効果のみを求めるすえかた
いわゆる「知熱灸(ちねつきゅう)」で、八割くらい燃えたところで、灸を取り去る方法です。この方法は主に浅層部の筋肉をゆるめるのに効果的(深層部の筋肉はゆるみ難い)で、背部のツボや手足のツボ(圧してズーンと響く所で良い)にすえれば副交感神経を優位にし、血流を改善し、新陳代謝がUPします。ゆえに、湯治(とうじ)と似たような効果を期待出来ます。灸は一回につき、4~10穴くらいのツボを選び、合計で20~30壮(「壮(そう)」とはお灸の単位)くらいにとどめましょう。「3日すえて1日休む」のが基本ですが、自分流にアレンジして行うのも良いです。灸は一度に沢山すえすぎると「灸あたり(湯あたりに似ている)」という熱症状(めまい、吐き気など)が出やすいので注意が必要です。灸はうまく付き合えば、健康・美容・長寿に貢献してくれます。
 
②蛋白変性を促し、免疫力を高めるすえかた
いわゆる「焼灼灸(しょうしゃくきゅう)」で、灸が完全に燃え尽きるまですえる方法です。つまり、意図的に皮膚を極(ごく)軽く火傷させる(焼き過ぎはダメ)ことで、温熱効果とは異なる効果を引き出す方法です。注意点としては、易感染者(糖尿病患者、体力が著しく低下した者、乳幼児・超高齢者など)には行ってはならないということです。なぜなら、皮膚を焼くことで「傷」が出来て、細菌やウイルスに感染しやすくなるからです。しかし、健常者であれば皮膚を軽く焼き、蛋白変性を強制的に起こすことで、主にNK細胞(ナチュラルキラー細胞)が増加するので、免疫系が強化されます。例えば、アレルギー性疾患や各種免疫系慢性病、ガンなど、現代医学で根治が不可能とされる疾患において、著しい効果がみられる場合があります。これは、自然治癒力を高める、という灸本来のすえかたでもあります。デメリットとしては「焼き加減」が難しいこと、感染しやすいこと、灸痕による美容上の問題が起こることなどです。よって、このすえかたは鋭敏な感覚と覚悟が無い人には、おすすめできません。上手く焼くコツとしては、皮膚表面が軽く焼けた時点(水疱が出来る手前)で灸を取り去ること、同じ部位に何度も何度も灸をすえないことです。ちなみに、灸が大流行した江戸時代に行われていたすえかたは主にこの焼灼灸です(灸の熱さに耐える美女の姿は、浮世絵における格好の題材となりました)。
 
③その他(院長が発見した灸のマル秘?テクニックなど)
・蚊に刺された場所に灸をすえてみましょう。1~3壮すえるだけで、かゆみが嘘のように消えてしまいます。軽い湿疹などにも、灸をすえるとかゆみが消えます。かゆくなっても有害な薬を塗る必要がなくなりま(火傷しない程度にすえると良いです)。
・膿んだりしていない、軽い水虫ならば、その上や周辺部に灸をすえることで完治・予防します(重度の水虫である場合はまず皮膚科に行きましょう)。
・不眠症には失眠(足裏、かかとの中心部のツボ)に多壮灸を行います。左右同時にすえ、両足に熱さを感じるまですえます。足がポカポカと暖かくなってきたら、灸をやめて布団に入ってみましょう。
・足裏(かかと)のガザつき部分に少し熱い灸をすえれば、皮膚の代謝がUPしてツルツルになってきます(火傷しないようにうまくすえるのがコツ)。

《灸の禁忌》

糖尿病患者(免疫機能が低下して、感染しやすい状態にある人)、衰弱・ひどく疲れている人、乳幼児、泥酔している人、昏睡状態の人などへの施灸は避ける。また、眼球、粘膜露出部(口、陰部など)、鼻中・耳中・肛門、受傷部・化膿部や顔面部、美容上問題になりやすい場所への施灸も避ける。また、施灸時は煙が出ますので、火災報知機の誤動作(禁煙厳守のホテルや公共施設などでの施灸は避ける)や、火事にも気をつけましょう。