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鍼には「ひびき」が必要

 最近は「痛くない鍼」とか「優しい鍼」とか「刺さない鍼」とか流行っていますが、基本的に鍼治療には「ず~ん」という感じがないと効果は得難いようです。いわば鈍痛、刺痛、C繊維痛です。ずしーんとした痛みが主で、「響き(ひびき)」とか「得気(とっき)」と呼ばれる、鍼治療独特の感覚です。
 
 鍼は基本的に痛いです。なぜなら、硬くなった筋肉に鍼を刺すと、筋肉が一時的に収縮し(鍼は生体にとって侵害刺激であるためグッと筋肉が縮まる。でも、侵害刺激ゆえに生体のホメオスタシスが発動し、負のフィードバック作用で生体に良い変化を与える)、筋肉に挟まれた神経が刺激されるからです。ですので、「どーん」とか「ずーん」とか「ずきーん」と痛い時は、硬い筋肉に鍼がしっかりと刺さっている証拠なのです。つまり、元々カタイ筋肉(コッタ筋肉)に鍼を刺せば、他の健康で柔らかい筋肉に刺した場合よりも、より強く収縮し(収縮に収縮が重なる)、筋肉の間や、筋肉周辺を走行している神経がより強く刺激されるため、刺鍼時に痛みが出るのです。よって、コリが強い人ほど鍼は痛いのであり(コリ過ぎると筋肉が完全に神経を潰すので、痛みは消える。)、コリが弱くなっていけば、鍼は痛くありません。したがって、正しい鍼治療ならば、治療を継続する事によって、刺鍼時の痛みは軽減していきます(痛みの増加と軽減を繰り返しながら、相対的に痛みが減るパターンもある)。痛い場所にしっかりと刺鍼する治療ほど完全な効果があり、完治を望めるのです。
 
 ちなみに、神経に鍼が当たると、強い触電感があるので、鈍い痛みは出ません。また、筋肉に刺した時も触電感が出ることがありますが(例えば、大腰筋に刺鍼すると、大腰筋の前を走行している大腿神経に沿って触電感を感じる)、直接、神経に当たった時よりも触電感が小さいので、違いがすぐにわかります(このあたりについては私の講習会資料をお読み下さい)。したがって、軽いビリビリ感があるときは、ほとんどが悪い、硬くなった筋肉に刺さっている証拠なので、鍼は刺したまま置いておきます(30分ほど鍼を刺したままにしておくと、視床下部と筋肉の間を神経がうまく行き交うので、筋肉がゆるむというわけのようです)。
 
 筋肉は、鍼が刺さると一時的に収縮し、のち弛緩するという性質があります(ちなみに、刺鍼した時の血管の状態も収縮のち弛緩です)。ですので、凝った筋肉に鍼を刺した瞬間は「うっ!」となりますが、鍼をさしたまましばらく置いておけば、筋肉は柔らかくなり、血管も拡張し、血流がよくなるので、刺鍼した部位周辺がポカポカ温まってくるのがわかります。
 
 筋肉は、ほぼ全身において、多層構造になっています。つまり、いくつもの筋肉が骨格にへばりつくようにして重なり合っているのです。しかし、実際はその筋肉ごとに機能が完結しており、悪くなった(硬くなった、凝った)筋肉そのものを目指して刺鍼しなければ、効果がありません。悪い筋肉に直接、鍼を刺さないとゆるまない(柔らかくならない)場合が多いです。まあ、実際は神経の走行を加味して、ゆるめるべき筋肉を狙って鍼をしますが。例えば、臀部(お尻)を例にとると、骨盤に最も近い方から、小殿筋、中殿筋、梨状筋、双子筋、内閉鎖筋、大殿筋が重なり合い、お尻を形作っています。腰痛が悪化すると、臀部に痛みを訴えるケースが多々あります(もっとひどくなると足に来る)が、この場合、一番奥(最下層)にある、小殿筋や梨状筋が硬化していることがほとんどで、ここに鍼を刺さないと治りません(腰部に問題がある場合もありますが)。皮膚表面からの深さは脂肪や筋肉の厚さによってマチマチですが、ほとんどの人は皮膚から7cm前後の場所にあります。ひどく筋肉が硬直し、萎縮している場合は、5cmくらいしかない場合もあります。逆に太っている人は10cm以上の深さにある場合もあります。
 
 したがって、小殿筋のようなインナーマッスルに刺鍼し、ゆるめるためには7cm以上の長さの鍼が必要になります。鍼の規格で言えば3インチ(約7.5cm)か3寸(約9cm)以上でないと届きません。腸骨筋においては4インチ(10cm)以上の鍼が要りますし、殿筋でも太っている患者ならば5インチ(12.5cm)以上の鍼が要ります。鍼は刺さってこそ筋肉がゆるみ、血流が改善するということが科学的に証明されているように、刺せば確実に筋肉はゆるむわけです。しかし、現在の鍼灸界では「刺さない鍼」が主流ですから、一体どうやって小殿筋のようなインナーマッスルをゆるめているのか、科学的な説明がほしい所です(たま出版の韮澤社長が火星人の住民票を持ってこないようなものです、今の日本鍼灸界は)。日本には「刺さずして、深部の冷えをとる!」などと騒いでいる鍼灸師が存在するようですが、果たして、刺さずして筋肉をゆるめることが物理的、解剖学的、生理学的に可能なのでしょうか。こんなことでは、一部の神秘主義者の信仰を集め、カ〇ト的な施術に陥る可能性があり、プラシーボ的な治療がメインになってしまうでしょう。
 
 まぁ、確かに、生体には微弱な電流が流れていますし、体の体積の70%ほどは水分が占めますから、手を触れたり、鍼を当てるだけでも術者と患者の磁場に変化が起こり、何らかの影響が身体に起こることは確かでしょう。したがって、いわゆる外気功やその他「手当」の治療が完全に無効であると断言することは出来ません。しかし、実際、私は自身の腰痛治療で毎週1回、3年間、とある有名な鍼灸院のいわば分院で、いわゆる「優しい鍼」の治療を受けていましたが、一向に完治しませんでした。これは、私が特異体質だからでしょうか?または、私は知らぬ間に宇宙人と第四次接近遭遇(the fourth kind/abduction)し、変な機械でも身体に埋め込まれてしまったのでしょうか。
 
 いや、違うでしょう。少なくとも、私が一般的な肉体を備えてることは、中学時代の入院生活や毎年の健康診断でも明らかですから、治療法に問題があったのでしょう。結果的に、北京堂で週1回の治療を6回受け、長年の腰痛は完治しました(これが弟子入りのきっかけです)。的確に刺せば、鍼は効くのだということを実感したのです。日本の鍼灸は、鍼をしっかりと刺さなくなったがゆえに、鍼の治療成績も相対的に落ち、社会的信用度も落ちてしまい、現在のような「鍼はインチキだ」的な構図が出来上がってしまったのでしょう。
 
 当院には、長年鍼治療を受けているにも関わらず、治らない、という患者が多く来院します。一体どんな治療を受けてきたのかと聞くと、ほぼ100%の患者が口をそろえて、「浅く刺し、痛くもない鍼で、手や足に数本の鍼を刺すだけの治療でした」と言います。そういう患者が果たして重症で治りにくいのか、というとそうでもなく、当院の鍼灸治療数回で完治してしまうケースが沢山みられるのです。例えば、先日、他の鍼灸院をたらい回しにされ、当院に来院した、不眠症の患者がいました。結局、私が、起立筋や頚部の筋肉を中心にしっかりと刺鍼し、自律神経の安定をとることを目的とする治療を1回行っただけで、その夜からぐっすり眠れるようになったと、1週間後に喜んで報告してくれました。例を挙げるとキリがないですが、ぎっくり腰で2週間ほど動けなかった患者を私が出張治療した際には、1回の治療で背を伸ばして歩けるようにしました。本来、鍼は、確実に刺せば効くものです。しかし、ちゃんと刺さないから、治せないのでしょう。
 
 したがって、以上の理由から、当院では治すために、深く刺すべきところは安全かつ確実に深刺します。なぜなら、私は、患者を出来るだけ短期間で治し、自立させ、社会復帰させ、鍼灸治療に頼らない状態に戻す手伝いをしたい、と真剣に考えているからです。東京には「週1回、一生、健康維持のために鍼灸治療を受け続けて下さい」とのたまふ鍼灸院も多数存在しますが、鍼灸は本来、漢方(中药)と同様に身体にとってはいわば「毒」であり、「毒をもって毒を制す(中医学の常識で言えば「药三分毒」)」のがその本分です(と、言っても鍼には薬のような毒も害もありませんが、何事もやり過ぎは心身を駄目にすることがあります)。
 
 確かに、当院でも、難病の類を治療する場合、完治または緩解までに1年以上かかってしまうことがあります(稀に完治しないケースもあります)。しかし、適切な鍼灸治療を施した場合、必ず何らかの変化を実感出来ますし、ほとんどの場合において、鍼灸治療を必要としないような状態にまでもっていくことが可能です(鍼灸は気持ち良い、とか、運動する暇も気力もない、と言う人が毎週通うパターンはありますが、基本的には、たまに鍼灸するだけが理想です)。
 
当院の鍼は、身体の状態が悪ければ悪いほど痛いし、しんどいです(治療を続けるうちに身体の状態がよくなるので、大抵はしんどくなくなってきて、心地よくなります。心地よくなったら治療は必要ありません)。しかし、「刺さない鍼」「優しい鍼」「無痛の鍼」などとその効果を比較すれば、明らかな身体の変化を実感出来るでしょう。多くの時間と労力、お金を費やしても結局治らず、失望させられ、その度に人間不信に陥ってしまうような患者を沢山みてきました。私も実際その一人でした。自分の身体を良くしたいがために多くの健康法や健康食品を試したり、アヤシイと思われる治療にも、藁にもすがる思いで、信じて、なけなしのお金をつぎ込んできました。ですが、そのほとんどで失望させられました。
 
 今、私が体系化しようとしている治療法は、まだまだ進化の途中ですが、今の状態でも、多くの患者を治すことが出来ると確信しています。それはいい加減な推測や妄想ではなく、現在自分の手で治療し、その効果を目の当たりにしている経験からの実感です。縁があった患者は一人でも多く治したいと、常に想っています。では、以下、私がまとめた得気の説明をどうぞ。
 

得気(とっき)

刺入した際に、患者または術者が感じる鍼治療独特の感覚のこと。患者はビリビリと電気が走るような感じや、重く鈍い痛み、痺れや腫れぼったさを感じることが多い。術者は鍼を押さえる指先にピリピリとした感じを受け取ったり、鍼が重く、渋る感じを受け取ることが多い。金元時代の『標幽賦』では得気が無ければ効果が無いとしている。得気が患者、術者ともに感じられぬ場合は、病巣部に気が至っていない(刺鍼部位が的確で無い)か、刺鍼部に問題が無いと考える。得気があるかないかは鍼の効果の一つの大きな目安となる。『霊枢・九鍼十二原』に「刺之用 気至而有効(鍼の作用は鍼下に気が至ってこそ有効である)」とある。『素問・宝命全形論』には「是謂冥冥、莫知其形、見其烏烏、見其稷稷、従見其飛、不知其誰、伏如横弩、起如発机(そこは深くて暗く、形を知ることが出来ない。また、まるで闇夜の空を飛ぶカラスのようにもみえ、また、きびが生い茂るようにもみえ、とにかく存在するのはわかるが、それが何なのかはわからない)」とあり、得気についての描写がある。得気は体質や病状、気候などにより変化するものであり、筋骨質や温暖な気候ならば得気は速く、逆に心性質や寒冷な気候であると得気は遅いか得られない。また、得気には邪気と正気があり、『霊枢・終始』には「邪気来也、緊而疾。谷気来也、徐而和。脉実者深刺之、以泄其気。脉虚者、浅刺之、使精気无得出、以養其脉、独出其邪気。(邪気が来ると刺入した鍼が締めつけられる感じがする。逆に穀気が来ると、鍼が締めつけられる感じは無い。脈が実している者には深刺し、溜まった邪気を体外へ引き出す。逆に脈が虚している者は浅刺し、精気を洩らさないようにする。つまり、その脈を養い、邪気を出さないようにするのである)」とある。注意点としては、正常な得気反応は、鍼が固く締めつけられる感じではなく、捻鍼したり提插するときにだけ、鍼が引き込まれるような感覚があるだけである。激しく捻鍼を行ったりして、筋繊維が鍼に巻きついたときにも動きにくくなるが、これは正常な得気反応ではない。また、得気は起こすには最低でも24℃以上の室温が必要だとされている。では、ついでに以下の用語もどうぞ(鍼灸師向け)。
 

 
 

候気(こうき)

得気が起こらないとき、起こるように行う手法・刺鍼法である。催気も同種の方法である。刺鍼の際、気が得られなければ補瀉することが出来ないため、その前段階として行う方法である。『鍼灸大成』には「刺鍼した経絡に指をのせ、経絡に沿わせて皮膚を上下左右に摩擦し、気血を往来させて経脈の上下を整えれば、鍼下には自然に気が至る」とある。『素問・宝命全形編』には、「経気已至、慎守勿失(経気が至ったら、それを失わないように慎重に守れ)」とある。『霊枢・九鍼十二原』には「知机之道者、不可掛以髪(機を知る者は、間髪を逃さない)」とある。